第1話と2話の原題は "Hooray for Hollywood"。パート1と2になっています。
まずは、1940年代のハリウッドで夢を追いかける登場人物たちのキャラクター、背景がきっちり描写されて物語が動き始める導入パート。キャストをご紹介しながらストーリーを追います。
登場人物がそれぞれの夢のスタート地点に立ち、いっしょに映画を作ることになる、というエピソードです。
ルックスだけは自信あり。スターを夢見るジャック・カステロ
演じるデヴィッド・コレンスウェット(David Corenswet)は1993年、フィラデルフィア生まれ。両親ともに弁護士、父は舞台俳優の経験あり、親戚には作家もいる環境で育ちます。ペンシルヴェニア大学途中で→ジュリアード音楽院に合格、演劇部門を卒業。
舞台で子役として活躍しますが、本格的な俳優業は2011年から。Netflix「ザ・ポリティシャン」(ライアン・マーフィ制作)にも出演。
何というか、由緒正しい(変な言い方ですが)ハリウッド型イケメンですね。古き良きハリウッドというイメージ通りの正統派二枚目。第二次大戦から復員して無職、妻は妊娠中、子供の頃からほめられたのは外見だけなのでこれならできるかも、と映画の世界に飛び込むものの、エキストラにも選ばれない。
ピンチです。そこで、バーでガソリンスタンドに誘われます。そのオーナーがディラン・マクダーモット演じるアーニー、という設定。映画「ペグ」のオーディションを受けます。
監督志望のレイモンド・エインズリーは業界のしがらみを破りたい
ライアン・マーフィ作品の常連、「glee」などのダレン・クリス(Darren Criss)。
自身がアジア系であることから、人種差別や偏見に左右されず仕事がしたい、人種に関係なく優れた作品を作りたいと考えています。実際、お母さまはフィリピン系とのこと。中国系の元スター、アンナ・メイ・ウォンを訪ねますが、その前に別の作品「ペグ」からスタートすることになります。女優の卵、カミールと一緒に暮らしています。
脚本家志望、才能あふれるアーチー
演じるのはジェレミー・ポープ(Jeremy Pope)。ミュージシャンでもあり、ブロードウェイ中心に活躍中。黒人で同性愛者という40年代当時とても生きづらかった人物という設定。本人もゲイであることを公言しているそうです。
黒人が書く脚本は黒人のための映画だけ、という常識を破るため、人種を言わずに大映画会社エーススタジオに脚本を送ります。内容は、スターの夢破れてハリウッドサインから投身自殺をした白人女優ペグ・エントウィスルの実話物語「ペグ」。採用されますが、紆余曲折を経て新たな作品を完成させるというストーリー。
厳しい設定の登場人物ですが、ふだんは明るく魅力的、才能あふれる作家で、パートナーにも恵まれます。
演技力抜群の女優の卵、カミール・ワシントン
レイモンドのガールフレンドであり、エーススタジオの誰もが才能を認めるカミール役はローラ・ハリアー(Laura Harrier)。「スパイダーマン: ホームカミング」やスパイク・リー監督の「ブラック・クランズマン」に出演している実力派です。
メイド役ばかりの黒人女優から、人種に関係ない役を演じたいと「ペグ」の主演を切望しています。
映画会社の社長の娘、夢に一直線のお嬢様クレア・ウッド
エーススタジオの社長のひとり娘であることを隠し、実力で主役を勝ち取りたいクレア役は、サマラ・ウィービング(Samara Weaving)。母国オーストラリアで活躍した後、LAへ。ドラマ版「ピクニック at ハンギングロック」などに出演しました。
カミールとはライバルであり、助け合う友人でもあり、競いながらも協力して「ペグ」の完成のために努力します。
心優しく素朴な新人俳優、ロック・ハドソン
実在のスターの名を借りて演じるのはジェイク・ピッキング(Jake Picking)。1991年ドイツ生まれ、ボストン育ち。「パトリオット・デイ」や「トップガン: マーヴェリック」に出演。素朴で優しい雰囲気がフィンを思い出させます。(いちいち「glee」を思い起すのもいいかげんどうかと思いますが。)
LAに出てきたばかりの純朴さとルックスのギャップが大きくて心配になってしまいます。アーチーと相思相愛になる同性愛者ですが、やはり同性愛者のエージェント、ヘンリー・ウィルソン(ジム・パーソンズ)にいろいろと強要されたり・・・。でもいつもピュアで思いやりのある新人俳優役。登場人物のなかでは弟分的な立ち位置でしょうか。
ガソリンスタンドのオーナー、アーニーと大物エージェント、ヘンリー
前回ご紹介したくせ者ふたり。アーニー役ディラン・マクダーモット(Dylan McDermott)とヘンリー役ジム・パーソンズ(Jim Parsons)が出てくるとワクワクします。ヘンリーはロックと契約します。
映画会社エーススタジオの社長夫人、エイヴィス
アーニーが経営するガソリンスタンドは実は売春を斡旋しておりまして、美形の店員揃い(もちろん全員男性)。女性も男性も相手にします。男性の相手は無理! と逃げ出すジャックが見つけてきたのがアーチーでした。そしてジャックはエースの社長夫人エイヴィスに気に入られます。
リッチな貫禄マダムで、若い頃、女優だったというエイヴィス役はパティ・ルポーン(Patti LuPone)。ブロードウェイ版「エビータ」などでトニー賞を受賞、さらにグラミー賞、ローレンス・オリヴィエ賞などを受賞している大御所です。
エイヴィスはサイレント映画に出演しましたが、トーキーになってユダヤ系の女優は成功しないと言われ、干された経験がありました。(そして結婚した映画会社の幹部が社長になった)
このドラマ、男優陣の脱ぎっぷりの良さに呆気にとられますが、それはさておき、登場人物それぞれを通して人種問題やLGBTQに関するテーマが提示されます。
ライアン・マーフィは、この作品を「黄金時代のティンセルタウンへのラブレター」と語ったそうです。ティンセルタウン(Tinseltown)は、派手できらきらと作り物のように輝くハリウッドの別名。ティンセルは電飾などをさすようです。
輝かしい40年代ハリウッドを舞台に、差別のない理想の世界を映画で実現する青年たちのお話かな、という方向性が見えてきますね。さらにエイヴィスには、女性として初めて経営に関わるという展開が待っています。
エーススタジオ幹部、ディック・サミュエルズと良き指導者、エレン・キンケイド
Dream partnership.
— Holland Taylor (@HollandTaylor) May 8, 2020
Dream work.
Dreamland. #hollywoodnetflix pic.twitter.com/SAUEKXIC5u
エーススタジオを支える凄腕のお二人。
左は上品で高潔で紳士な尊敬される重役、ディック役ジョー・マンテロ(Joe Mantello)。ブロードウェイや映画で幅広く活躍中。ディック個人は人種差別を否定していますが、現実的には無視できないと悩みます。さらに同性愛者であることを隠し、自分らしく生きられないと苦しむ人物でもあります。
アジア系の女優アンナ・メイ・ウォンが「大地」でオスカーを取るべきだったと実力を認めつつ、実現できなかったことを悔やんでいます。
右のエレン・キンケイドは俳優を育てる指導者役で、演じるのはホランド・テイラー(Holland Taylor)。数多くの映画・ドラマで存在感あるキャラクターを演じていますね。温かく見る目のある指導者役にぴったりです。夫を亡くしているエレンはディックに片思い中で、エイヴィスと3人でスタジオの舵取りをする役どころ。
黒人であるアーチーやカミールの才能を率直に認め、ジャックの素質に気づく人物です。
エレンの演技指導シーンはいつも興味深いです。その一つが、間大西洋アクセント(mid-Atlantic accent)。wikipediaによると、イギリス英語とアメリカ英語を混ぜ合わせてつくったもので、当時の上流階級や映画産業でよく用いられたとのこと。カミールたちがアクセントや発音の訓練を受けるシーンがありました。
“ドリームランド”が合言葉? アメリカの夢って何だろう
もともとはアーニーのガソリンスタンドで、裏のお仕事の合言葉が「ドリームランド」。成功を夢見る若者をガソリンスタンドへ誘った言葉でもあり、ドラマ自体がドリームだなと思います。
hey fella, fill'er up, would ya 😉 pic.twitter.com/V540bpzDur
— HOLLYWOOD (@hollywoodnetflx) April 23, 2020
ジャックがエイヴィスになぜ映画が好きか話すシーンがあります。
「デートもキスも映画館だった。映画で人生の価値が理解できた。生きる意味を知った。この先に希望があると知った。そのために生きているのだと」
戦争が終わり、夢に満ちていた時代、アメリカの希望の時代へのオマージュでもあります。その象徴が映画産業なのですね。
もちろん現実は厳しい。ディックはレイモンドに脚本について話しをします。脚本家が黒人だと分かったら上映しない映画館もある、売り上げには打撃になる、採用できない、と。
でも「この街の人は映画の真の力を知らない。映画は現実だけでなくあるべき姿も描ける。映画の作り方を変えれば世界だって変えられる」
映画には世界を変える力がある、そう信じて差別や偏見との戦いを意識しながら作品を作るお話だとはっきり示されます。
とはいえエンターテインメントですから、笑えて泣けて心に残る仕掛けがたくさんあります。
ジャックとロックのカメラテストは、だれが見てもひどかった! 俳優としてやっていけるのでしょうか・・・。ジャックなんて、おとり捜査官に逮捕されちゃうし。
でもみんなが夢をもって集まって来る町なのですね。
映画「ペグ」の製作自体は決まりました。次回から、いよいよ配役と作品づくりのエピソードが始まります。