ドキュメンタリーのような戦争ドラマ。前回、アレクサンダー・スカルスガルドの10年前を振り返ってのインタビューをお伝えしましたが、今回は全体の感想です。
こんなに戦争ものに引き込まれるとは思ってもいませんでした。おすすめです。
実在の登場人物ばかり。イラク戦争、最初の40日
同行した「ローリング・ストーン」誌のエヴァン・ライトはじめ、実在の人物ばかりが登場。取材を許可し、内容が分かった上で撮影にも全面協力したアメリカ軍ってやっぱりすごいですね。
群像劇ですが、中心的なキャラクターがブラッド “アイスマン” コルバート軍曹(アレクサンダー・スカルスガルド)と、その上役にあたる(おそらく)年下のネイト・フィック中尉(スターク・サンズ)。そして彼らのチームが中心です。スターク・サンズはドラマ版「マイノリティ・リポート」やブロードウェイで活躍しているもよう。
2003年にブッシュ大統領が始めたイラク戦争で、最初に現地入りした米海兵隊・第1偵察大隊の40日の物語です。
クウェートからバグダットを目指します。ヘリコプターや戦車の実戦部隊よりも前に、まず偵察する先導部隊なわけですが、なんと移動車両はハンヴィー。アメドラによく出てくる、ジープを頑丈に大きくしたイメージですね。戦車のように守られているわけでなく、窓や天井はあいている(銃座があるからですが)こんな車で軽装で未知の土地の先頭を進むのかと驚きました。
最初期ですから備品の不備も多く、砂漠なのに迷彩服を支給されたり、せっかくの赤外線システムが電池不足で使えないとか、判断ミスから補給トラックを遺棄してしまい一日一食とか。しかも半数が食あたりになることもありました。交戦規程なんて指揮官の気分でコロコロ変わる。
世界に冠たるアメリカ軍、海兵隊のエリート部隊が何ということでしょう・・・。混乱することの多い戦争初期とはいえ、演説だけが仕事のような指揮官たちの無能ぶりや作戦・連絡ミスを容赦なく実名でぶった切っています。そのトップ・オブ・トップはマティス少将(トランプ政権の前国防長官)でした。
そんななか、できる中間管理職がにらまれるのは世の常で、真っすぐなフィック中尉を心配して支えるのはアイスマンやその部下達、現場の兵士たちなわけです。
偵察要員一名の育成に100万ドルかかるという話がありまして、この優秀な部隊とお追従ばかりの幹部たちのギャップは苦いものがありました。一般企業に置き換えて観てしまいますよね。
例えば、「投降すれば捕虜として保護する」という米軍のプロパガンダを信じ、投降して来たイラク人住民に対して。
口の悪い兵士たちは(常にFワード連発です)イラク人を馬鹿にしたり人種差別をしたり貶めたり所持品を取り上げたり、好き放題悪態をつきながら身体検査をしていたわけですが、「やっぱりやめた。イラク人全員送り返せ」というトップの命令に凍りつきます。
同国人を監視する暗殺部隊のもとに送り返せという指示に、そりゃないだろうとショックを受けて無言になるわけで、このあたり、(たぶん)極めて普通のアメリカ人青年の感覚が描かれます。
味方(米軍)の誤射によって重傷を負ったイラク人の子供を治療する余裕はないと言われたときは、フィックやブラッド含む下級士官が揃って抗議。ヘリ輸送は無理でも車によって輸送・治療する手段を確保しました。
現場チームがこの村には女子供しかいないと正確に報告したのに、指揮官が勝手に村ごと爆撃したり。
パニックを起こす上官、意味不明の命令、連絡ミスによる誤爆など問題山積み。それでもわざとらしい派手な演出はなく、日常が描写されまして、むしろ問題多すぎて一つにしぼれないのではと思うほどですが、実際の毎日はこうなんだろうなとかえって実感しました。
「アフガンに乾杯」というシーンを観ながら突然思い出したことがあります。
何のドラマだったか覚えていないのですが、退役軍人2人の会話で、片方がもう一人に「お前はアフガンだったからいいよな、正義の戦争で。俺なんかイラクだぜ」と言うシーンがあったんです。アメリカ人にとってはそういう認識なんだ、と思ってしまいました(自分で判断できるほど詳しくないので、実際のところは分かりませんが)。
戦争を始めた理由だった大量破壊兵器は見つかりませんでしたからね。
困難な進軍の末、部隊はようやくバグダッドへ。フセインの圧政から解放してくれたと感謝する住民もいます。というか、交戦する「敵」の姿は把握できず、出会うのは普通の住民ばかり・・・。新しい支配者が来た、くらいの認識らしい。
最終話のタイトルは「Bomb in the Garden」。不発弾を処理するシーンがありましたが、Bomb というのは、不条理を目撃した戦争の被害者、憎しみを募らせるイラク住民という意味もあるのかな、火種は今後も消えないということかなと思いました。隣国の普通の大学生が戦闘に加わったシーンもありました。
フィック中尉は「我々は他国に “侵攻” した。その大義を示すべきだ」と言いますが、理想通りにはいきません。
ブラッド達のハンヴィーに同乗していた記者エヴァンは、帰国するとき現場のトップである中佐に話を聞きに行きます。軍務の困難さを語るなか、戦闘に興奮するという本音を共有したのは苦い取材だったと思います。
ドラマ全体を通して、善悪とか正義の味方で割り切れるものは存在しない世界を描いていて、まさに日常の現実そのもの。盛り上げる音楽は無く、淡々としているのに飽きない、面白い、珍しい作品でした。
制作は「ザ・ワイヤー」のチームだそうです。
本人役で出ていた元軍人や、映画・ドラマでよく見る俳優さんも多数いました。「メンタリスト」のリグズビー(オーウェン・イオマン)はすぐ分かりましたよ。
Today we honor 10 years of Generation Kill. https://t.co/0nb0P6A3q3
— HBO (@HBO) August 24, 2018
Stream it now on HBO GO and HBO NOW. pic.twitter.com/UETkEyJVJQ
↑劇中、こんな音楽はありませんけど。
考えさせられることの多いドラマでした。戦闘シーンは大迫力ですが残虐シーンがあるわけではなく、 何とか全員無事に最終回を迎えました。でも日常は変わらず続く・・・です。
(↓はインタビュー時の2018年「リトル・ドラマー・ガール」の頃)
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— AMC Networks (@AMC_TV) February 8, 2018