好みでした。いい作品だと思います。ネタバレ感想です。
元々はいわゆる感動大作、苦手なんです。若い頃ならともかく疲れそうで・・・しかも実際の悲劇を扱った映画。
単に個人の好みなんですが、これは抑制の利いたトーンが誠実な感じがするというか。
もちろん大規模テロが題材ですから迫力あります。スケールも大きいです。結果的に “名もなきヒーロー” になった人達の物語。
大仰な盛り上げ圧力よりも真摯な人物描写が胸に残る感じで、この作り方、好きだなあと感じました。
2008年の実話がベース。
11月26日~29日、インド・マハーラーシュトラ州ムンバイ(旧ボンベイ)で起きた同時多発テロを描いています。
外務省HPによると、主に外国人を標的にしたテロで、日本人1人を含む165人が死亡、日本人1人を含む304人が負傷。
駅やレストラン、ホテル、病院など10か所ほどが襲われ、そのうちの一つ、五つ星の「タージマハル・パレス・ホテル」が舞台です。
当時の宿泊客500人以上、そして多くの従業員が閉じ込められました。
ホテルにとっては、ゲストの命を守ることが最大の目標。
そのために、知恵を絞り、勇気を出してみんなで生き残ろうと頑張る3日間のお話です。
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2018年製作の映画で、Netflix, amazon prime, hulu, U-NEXT など各社配信中。
実在の人物からキャラクターを作り上げた
時々、実際のニュース映像がはさまれるので、当時のドキドキを思い出します・・・。胸がしめつけられます。
同時にどうしても気になったのが、どこまでがフィクションかということ。映画のクオリティには関係ないと言われるとそこまでなんですが、やっぱり、どうしても・・・
「TIME」が同じことを監督に聞いてくれてるインタビューがありました。
これによると、基本的に、実在の人物をもとにキャラクターを作ったらしいです。もちろん元になった人物のプライバシーに配慮して、とのこと。
例えば・・・
■ウェイター、アルジュン(デヴ・パテル)
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HEROIC云々~と書いてありますが、分かりやすスーパーヒーローではありません。
ただ真面目に一生懸命、お客さんの誘導を続ける普通の青年で、自分も家族のもとに帰りたいだけで、この普通っぽさを応援せずにはいられない。
アンソニー・マラス監督によると、アルジュンの行動の多くは実際の出来事に基づいているそうです。
それはレストランのウェイターと、警察を案内した丸腰の警備員の2人だったとのこと。
「スラムドッグ$ミリオネア」「LION/ライオン~25年目のただいま~」のデヴ・パテル、怯えながらも一生懸命というスタッフ役、素晴らしかったです。
■宿泊客、デヴィッド&ザーラ(アーミー・ハマー&ナザニン・ボニアディ)
Life can change in an instant. #HotelMumbai
— Hotel Mumbai (@HotelMumbaiFilm) May 27, 2019
On Digital 6/11
On Blu-ray 6/18https://t.co/skgYhATag9 pic.twitter.com/UxMPWaHvWj
アメリカ人の建築家デヴィッドと富豪の娘ザーラ夫婦。赤ん坊とベビーシッターと4人で豪華スイートに宿泊します。
デヴィッドはテロリストに殺されてしまいますが、家族を探し続ける役・・・今は昔のアーミー・ハマー(以前はファンだったので感想書くの躊躇しましたが)
ザーラはテロリストに殺される直前、祈りを唱えたことでムスリムだと分かり、殺害されませんでした。
実在の2組のカップルがモデルになっているそうです。
1組は、映画同様テロリストに捕らえられて人質になりました。もう1組は、幼い子供のためにどちらかの親が生き延びられるよう、別行動を決意したといいます。
モデルのその後は書かれていませんでしたが、監督は架空の人物にしたことについて「生き延びた人のプライバシーと生き延びることができなかった人の記憶、両方を尊重するため」と語っています。
■総料理長オベロイ(アヌパム・カー)
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↑の動画は、テロ発生当初、帰宅しても責めないとスタッフに話すところ。でもほとんどが本当にホテルに残って、または戻って来て、脱出のために尽力します。
この人だけは、有名過ぎてフィクションに出来なかったそうです。
数十年にわたって総料理長をつとめ、インドを代表する料理人として知られ、尊敬されるカリスマ的な人物。
作中でも、的確に指示を出し、数十人のゲストを誘導します。
インド出身の名優、アヌパム・カーが体現していて、決断力に優れたリーダー役。「ニューアムステルダム」カプール先生より厳しい、でも人望のある主人公の1人でした。
■宿泊客、ワシリー(ジェイソン・アイザックス)
VERY EXCITED to be moderating 2 Q&As this weekend at the @ArcLightCinemas Hollywood for the gripping thriller #HotelMumbai with #JasonIsaacs & director Anthony Maras!! Tickets are on sale now & hope to see you there! pic.twitter.com/NzHKo99PRx
— Scott Mantz (@MovieMantz) March 21, 2019
表向きはロシアの実業家、実は旧ソ連軍特殊部隊の将校。
最初は尊大で女好きでいやな奴ですが、じゃあ悪役かというとそう単純ではなく、ザーラを助けます。アフガニスタンにも従軍していたのでイスラム過激派にとっては完全な敵。最後までタフで抵抗しますが殺されます。
ワシリーも、実際に宿泊していた裕福なビジネスマンと元特殊部隊員の2人を合体させたキャラクター。
「ブラックホーク・ダウン」「ハリー・ポッター」シリーズなどのジェイソン・アイザックス、軍人役ぴったりですね。
賛否両論テロリストの描写とリアリティ
事件のその後が知りたくなって検索したところ、作品に対する批判も多かった・・・。
ほとんどは、テロリストを描くことの危うさについてでした。
狂信的なイスラム原理主義者というより、洗脳された未熟な青年たちで、テロに参加する代わりに家族がお金を受け取る約束だったとされていました。
インドのメディア「HindustanTimes」は、テロリストを人間的に描いたことを問題にする人がいる。だが、彼らの行動を肯定したり代弁したと誤解すべきでないと伝えています。
確かに「将来のテロリストに自分たちは映像に残ると思わせてはいけない」と批判しているメディア・評論家は多かった。
作中のテロリスト集団は末端の実行犯で、司令官に携帯(無線?)で指示される構造です。テロ組織のいろんなパターンの一つとして描いたことは説得力を生んだと思います。
ちなみに、主犯はパキスタンに拠点を置くイスラム過激派ラシュカレ・タイバといわれていましたが、首謀者は捕まっていないらしいです。詳しく発表されていない事もあるかもしれません。
なお、リアリティのある言語についても言及されていました。
インドが舞台の映画では単純に英語とヒンディ語(公用語)がほとんどだそうです。
この作品では、警官はマラーティ語(ムンバイ周辺の方言)、テロリストはパンジャブ語(インド・パキスタン国境周辺)、またテロの司令官も別の方言を喋っていたらしい。
多様な文化と宗教と差別と一体感
インドには行ったことがないのですが、混沌としたイメージがあります。世界一の多民族・多宗教国家のような。
舞台は五つ星ホテルなので、裕福な外国人が多い。でも従業員はアルジュンのように地元の普通の、欧米から見れば貧しい人達です。
貧富の違いがあっても文化が違っても、同じ目的のために頑張る・・・って、素晴らしく聞こえるけど実際は大変だったと思います。
想像を絶するストレスでしょう
助けてもらってるのに、文句を言うお客さん、いるんです。
なのに、頑丈な部屋に隠れている間も、食べ物や飲み物をサーブするスタッフに泣けてきました。
イギリス人の高慢そうな老婦人がいまして、外国語(たぶん地元の言葉)を話すザーラをテロリストの仲間だと騒ぎだします。で、アルジュンのヒゲとターバンが不愉快だとクレームも。
ムスリムもシーク教徒も過激派もごっちゃになって、単に異文化に無知なんですが、ここでアルジュンは、ちゃんと冷静に説明します。
"To get through this, we must stick together." Check out this exclusive clip from #HotelMumbaiFilm. Now playing in select NY/LA theaters. Everywhere March 29. Get tickets: https://t.co/yCRjoV9nPe pic.twitter.com/5YoEY4wOmC
— Hotel Mumbai (@HotelMumbaiFilm) March 23, 2019
家族の写真を見せて安心させ、ターバン(パグリー)はシーク教徒にとって神聖で高潔さと勇気の象徴で、子供の頃から外出する時は必ずつけていた。でもお客様が不安でしたら外しますが、と。
女性は外す必要はない、ただ「怖かっただけ」と言い、アルジュンは、みんな怖いから団結しなくてはと話しました。(でも怪我人のためにはパグリーをさしだす)
差別や誤解に関するシーンは、いずれも押しつけがましくなくてサラっと自然です。ドラマチックというより、むしろリアル。
自分は差別主義者じゃないと思っていても、極限状態で冷静な判断・行動ができるか分からなくなりました・・・
そのためにも、一番大事なのは知識じゃなかろうかと思ってしまう。
遅れていた治安部隊が到着→制圧→再建へ
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↑ヘリコプターは治安部隊。
治安部隊NSGコマンドが到着するまで10時間近くかかったといいます。インド、広いですから。
当初、パニックになった地元住民たちは、安全な場所を求めてホテルに殺到します。
4人のテロリストはその住民に紛れてホテルに入り、手当たり次第に殺していまして、途中潜入した地元警察も頑張りましたが、テロリストはライフルや手りゅう弾などを大量に持ち込んでおり、武器が違いすぎました・・・。
やがてホテル内で火災が起こり、アルジュン達とゲスト集団は脱出を試みます。見つかって銃撃を受けて逃げ惑っている時、精鋭部隊が突入、制圧されました。
部隊は実行犯10人中9人を殺害。
タージマハル・ホテルの死者の半分は、客を守るために残った従業員だったそうです。もう号泣・・・
そしてレストランは3週間後、ホテル自体も21か月後に再開。生存者が世界中から集まったそうです。今も多くの従業員がホテルに残っているそうな・・・
最後の方は、実際のニュース映像が多いです。
オベロイ料理長は、テロの脅しに屈しないためにも早く再開したかったと語ったらしい。
再建まで描いてくれてほっとしました。
~~~まとめ感想~~~
英雄的な戦闘シーンがあるわけでも、宗教的なバトルを描いているわけでもありません。
極限状態で普通の市民がどんな行動をしたかが焦点で、時に淡々と、時に怯えながらの必死の判断が共感を呼ぶんだなと思いました。
悲劇だけれど素直に感動できる清々しさがあるような。
銃撃シーンや爆発・炎上など激しい、悲惨な場面も多いのですが、ベタベタにしない、盛り上げを押し付けない描き方に好感をもちました。ジリジリするかと思っていたけど、テンポがいいのでその心配は無かった。
英雄的な行動とか勇気って、突然試される。特殊な時ほどその人の生き方が出るんでしょう。良質なヒューマンドラマだと思います。
最後に、映画本体ではないけれど動画を2本ご紹介します。
↓実際の出来事を振り返ってのドキュメンタリー番組があったようです。
Before you see #HotelMumbaiFilm, join @PBS this Wednesday for a special airing of "Secrets of the Dead," as they take us through the terrifying true story of the 2008 attacks that struck the heart of Mumbai. pic.twitter.com/l3oNi3bck6
— Hotel Mumbai (@HotelMumbaiFilm) March 19, 2019
↓アヌパム・カー先生、じゃなかった料理長役名優の投稿です。ライフストーリーを1分にした誕生日のメッセージ動画。
オフィシャルアカウントがリツイートしていました。
इंडिया में आज मेरा हैपी बर्थ्डे है। न्यू यॉर्क में कल होगा।Happy Birthday to me. 🤓. Sharing my journey and mantra of life with you all in this one minute clip. “I only can change my life. No one else can do it for me.” Chalo!! Sab log mujhe wish karo!🙏😍 pic.twitter.com/RUKq4fTvE5
— Anupam Kher (@AnupamPKher) March 7, 2019
↓デヴ・パテルということで